DV・虐待のニュースは近頃大きな社会問題として取り扱われています。
その凄惨性や残虐性を非難するだけでは被害者を減らすことは出来ません。
虐待加害者が更生してこそ被害者は減るので、今回は虐待加害者の背景を知ると同時に更生の可能性について言及していこうと思います。
1.虐待加害者は精神異常者!?
事件の残虐性を知ると虐待加害者は精神的におかしい人と思うかもしれません。
この答えについては、半分正解で半分間違いなのかもしれません。
と言いますのも、当カウンセリングルームに更生のために通っていらっしゃる方たちいずれも元々は被害者であることがほとんどなのです。
想像したくなくても想像してみてください。
小さい頃から親に否定され、親が少しでも気に入らなければ引っぱたかれ、いつも親の顔色をうかがい続けた幼少時代があったとしたら・・・
そんな状況下であっても、子どもが生きていくためには親に気に入られなければなりません。
つまり親の支配(間違った教え)を肯定しなければならないのです。
核家族世帯が増え、地域のコミュニティも縮小している今日、家庭内で何が行われているかなど外から把握するのは困難です。
親の関わり次第で、我が子が虐待加害者予備軍になるかもしれないことを十分に理解しておく必要があるかもしれません。
私はあんな親のようにはなりたくないと思いながらも、愛のあるコミュニケーションの取り方を学べなかった人はどのように関わればよいか分からないので、無意識に親と同じような行動を取ってしまいます。
多くの加害者が、「あんなに嫌いだった親と私は同じようなことをしています」とカウンセリングを通して気付かれる方が大半です。
2.ストレスは弱い人のところ(断ることが出来ない人)へ集まる
ストレスは断ることが出来ない立場の人や断れない性格の人のところへ集まっていきます。
上司から部下へ。ボスママから下っ端ママへ。夫から妻へ(妻から夫へ)。そして親から子どもへ。
例を挙げれば、パワハラ体質のある職場でご主人がストレスを家に持って帰ってきてはパートナーである妻にそれをぶつける。
ぶつけられた妻は他に吐き出し口もなく、子に対して厳しく当たってしまう。
このように、ストレスは立場の強い人や声の大きい力のある人から立場の弱い力のない人へ向かう傾向があります。
この流れを食い止めるために出来ることは『人に相談する』ということです。
職場であれば人事や同僚、上司の上司などに悩みを打ち明け自分だけで背負わないようにする。
家庭の話はしにくいかもしれませんが、信頼できる友人や知人に相談してみる。
人に悩みを打ち明けたところで何も変わらないと感じている人も多いかもしれませんが、
少なくとも悩みの渦中に人間よりは事を冷静に客観的に見られるはずです。
当カウンセリングルームのトップページにも記載してある通りストレスは、
①自分の気持ちを吐き出せない時に溜まる
②自分の気持ちを分かって貰えない時に溜まる
このような認識で良いかと思います。
コロナ禍で人との繋がりが薄くなっている今、見えないところで家庭の問題も深刻化しているでしょう。
今一度、人に相談することが不要不急かは確認する必要があるでしょう。
3.虐待加害者更生の可能性
現実的な数値で言えば可能性は半々です。
というのも自分の中にしみ込んだ「当たり前」と思っていることをどこかで否定していかなければならないからです。
それは自分自身をも否定しているように感じることもあるかもしれません。
そこまでの覚悟を持って「何としてでも変わりたいんだ」という強い気持ちが無ければ更生は難しいものとなります。
私はどのような相談者であっても徹底して寄り添って、気持ちや考えを頭ごなしに否定する関りは絶対にしません。
そのように丁寧に話を進めていっても、生き方そのものを変えるというのは容易なことではないということでしょう。
話は脱線しますが、以前私はうつ病を患っていました。
うつ病を寛解して治すというのも長い年月をかけ辛い日々を苦戦しながらも自分を変える努力をして薬なしの状態までもってこれました。
虐待加害者たちと何となく通ずる部分があるように思うのです。
やめたくても止められない。その度に深く反省しているのに繰り返してしまう。辛いけどもうどうしようもないと諦めてしまう。
こんな風にもがき苦しむのはうつ病も全く同じなのです。
この経験が虐待加害者を色眼鏡で見ないようになったいい経験だったと今では思います。
4.カウンセリングで効果の出やすい加害者たち
効果の出やすい順に列挙します。
①虐待していることを自覚し、止めたいと思っている人
②虐待していることは無自覚(人から言われないと分からない)だが、自分は良くないことをしていて変えないといけないことが分かっている人
③虐待していることは自覚しているが、それの何が悪いのか分からない人
④虐待していることも無自覚で、全く悪い事をしている自覚が無い人
カウンセリングの継続率で考えても①に該当する人は9割以上が継続します。
②に該当する方も比較的更生することが多いように感じます。
ただ、③・④に該当する方は程度によってはかなり厳しいです。
幼少期の体験をお話しする中で、傷付いている自分を認められるか、親の教えを否定できるかがカギになってきます。
「傷付けた親と同じようにあなたも子どもにしているんですね。」
このセリフにハッと気付きがあるのです。(いろんな言い回しや、アプローチは複数あります)
5.まとめ
・虐待加害者はそのバックボーンや現在おかれている環境からストレスの逃げ道を失った人々が手を染めてしまいやすい事。
・行為そのものは決して肯定されるものではないが、厳しく咎めることだけが全てではない事。
・加害者本人の意識によっては更生も十分可能な事。
上記のようなことが伝われば幸いです。
人が変われるときは本当の自分に気付いた時。
私は目の前の相談者が変われることを信じて相談を受けるのみです。
うつ病歴3年。カウンセリングによって症状が寛解した体験を持つ。
現在は産業カウンセラーとして、個人のカウンセリングからメンタルヘルスの研修講師、行政(静岡県・静岡市)の相談員を務める。
「カウンセリングをもっと身近に」をテーマに押し付けない、負担にならないカウンセリングを心掛けています。